手紙・挨拶文

手紙の書き方|前文・主文・末文・後付けの基本構成

更新: 高橋 誠一

改まった手紙は、前文・主文・末文・後付けを順に整えるだけで体裁が決まる文書です。
高橋誠一がビジネスマナー研修で新入社員にお礼状を書かせると、前文を飛ばして用件から書き始めて手が止まる人がほとんどですが、4つの枠を紙に区切ると急に書けるようになります。
前文には頭語、時候の挨拶、安否の挨拶、感謝を決まった順で置き、そこさえ型どおりに入れれば、後半は用件を簡潔に書き進めるだけです。
さらに、拝啓と敬具、謹啓と謹白、前略と草々のような対応関係や、日付・署名・宛名を置く後付けの作法まで押さえれば、白紙の便箋でも迷わず書き始められます。

手紙は4つのブロックでできている

改まった手紙は、前文・主文・末文の3部に後付けを加えた4ブロックで考えると、ぐっと整理しやすくなります。
手紙は作文のように自由に広げるものではなく、空欄を順番に埋めていく型です。
研修で「手紙は作文ではなく穴埋めです」と伝えると受講者の表情が緩み、便箋を4つの帯に区切って渡すだけでも、白紙のままより早く書き上がります。
型が見えると、何を書けばよいかではなく、どこに何を置くかへ意識が移るからです。

前文・主文・末文・後付けの役割早わかり

前文は挨拶の導入、主文は用件そのもの、末文は締めの挨拶、後付けは日付・署名・宛名で「いつ・誰が・誰に」を明示する欄です。
前文には頭語、時候の挨拶、安否の挨拶、日頃の感謝が順に入り、最初の一行で相手との距離感を整えます。
主文は本題に入り、末文で相手の健康や繁栄を祈って結び、後付けで文面を現実のやり取りに結びつけます。
こうして見ると、手紙全体はばらばらの文章ではなく、役割の違う4つの帯で組み立てる構造だとわかります。

総合職時代、海外取引の礼状を日本語で書く場面でも、結局はこの4ブロックの型を英文レターのフォーマットに置き換えて整理していました。
言語が変わっても、最初にあいさつを置き、次に用件を述べ、最後に締めて署名する骨格は変わりません。
型は表現の制約ではなく、相手に読みやすく届けるための地図です。
そこが見えると、改まった手紙はずっと書きやすくなります。

頭語と結語がブロックを挟む仕組み

頭語は前文の冒頭に置き、結語は末文の最後に置きます。
拝啓―敬具、謹啓―謹白/謹言/敬白、前略―草々、復啓―敬具、再啓―敬具のように、必ず対で使うのが基本です。
つまり頭語と結語は、前文と末文を外側から挟む額縁のような存在で、本体のあいさつをきちんと囲います。
ここを崩すと文全体の格が乱れるため、短い語でも役割はとても重いのです。

前文は頭語→時候の挨拶→安否の挨拶→感謝の順で進みます。
時候の挨拶には「厳寒の候」「大寒の候」「寒冷の候」のような漢語調と、親しい相手に向く口語調があり、6月なら「入梅の候」「梅雨の候」「初夏の候」、8月なら「残暑の候」「晩夏の候」、11月なら「晩秋の候」「霜降の候」が使われます。
立秋のような暦の節目で言葉が切り替わる点も見逃せません。
相手や場面に応じて言葉を選ぶと、形式が単なる決まり文句ではなく、心配りとして働きます。
なお「かしこ」は女性専用の結語なので、ビジネスでは避けるのが無難でしょう。

改まった手紙とメールの構成の違い

縦書きの正式な手紙は、前文の挨拶を省かないのが原則です。
取引先、目上への案内、礼状、謝罪文のような場面では、頭語と結語を備えた整った形が相手への敬意を示します。
後付けでは日付・署名・宛名を順に置き、宛名は行頭にそろえて一字下げ、少し大きめに記します。
自分の名前や「私」を行頭に置かない、相手の名前を行末に置かない、後付けだけを2枚目に残さない、といった細かな作法も、この整え方の延長にあります。

横書きのビジネスメールは、件名と用件が中心で、時候の挨拶を省くことが多いです。
しかも簡潔さが優先されるため、正式な手紙のように前文を厚くしません。
慶弔の手紙では忌み言葉を避ける配慮も求められるので、メールよりさらに言葉選びが繊細になります。
つまりメールは実務向き、手紙は儀礼性を伴う形式です。
この違いを押さえると、なぜ手紙では型が重要なのかが自然に腑に落ちます。

前文の書き方|頭語・時候・安否・感謝

前文は、手紙全体の第一印象を決める書き出しです。
頭語で始め、時候の挨拶、相手の安否、自分方の近況と感謝へと流れる形にすると、文章の骨格がぶれません。
とくに改まった手紙では、ここを整えるだけで本文の入り方がぐっと自然になります。

頭語は前文の一字目に置く

前文の基本は、頭語を一字目に置いて書き始めることです。
拝啓、謹啓、前略のような頭語は、相手との関係性や手紙の改まり具合を最初に示す役割を持っていますから、ここが決まると全体の調子も定まりやすくなります。
続く時候の挨拶や安否の挨拶は、その頭語に呼応して選ぶのが自然です。

改まった手紙は、前文・主文・末文に後付けを加えた4ブロックを基本に組み立てます。
つまり、手紙は最初の数行で完成度が見えるということです。
研修でも、まず頭語の位置を確認するだけで書き出しの迷いが減り、相手に失礼のない形へすっと入れるようになります。

時候の挨拶:漢語調と口語調の使い分け

時候の挨拶で受講者が最もつまずくのは、「何月に何を書けばいいか分からない」という点です。
毎回ここで手が止まるので、月別の言葉を一覧で手元に置くだけで前文の所要時間が半分になる、というのは研修現場で何度も実感してきたことです。
たとえば1月には厳寒の候・大寒の候・寒冷の候、6月には入梅の候・梅雨の候・初夏の候、8月には残暑の候・晩夏の候、11月には晩秋の候・霜降の候が使われます。
立秋など暦の節目で言葉が切り替わる点も、迷いやすいところでしょう。

時候の挨拶には、漢語調と口語調があります。
漢語調は「〇〇の候」「〇〇のみぎり」のように形式的で、目上の相手やビジネス文書に向きます。
口語調は話し言葉に近いやわらかい表現で、親しい相手や温度感を出したい手紙に合います。
親しい先輩へのお礼状で漢語調を使ったところ、「かたすぎて他人行儀」と笑われたことがあり、そこからは相手との距離を先に見て選ぶようになりました。
表現の格は、内容より先に関係性を映します。

種類形式向く相手印象
漢語調〇〇の候、〇〇のみぎり目上、取引先、改まった手紙端正で格式がある
口語調季節を感じるやわらかい言い回し親しい相手、近況を交える手紙親しみがあり自然

相手の安否を尋ね、自分の近況と感謝を添える

安否の挨拶は、相手方から自分方へと進めるのが基本です。
先に相手の健康や繁栄を気遣い、その後に自分の近況を述べる順序には、相手を立ててから自分を語るという敬意の形が表れています。
読み手にとっては、いきなり自分の話を始めないことで、冒頭から落ち着いた印象を保てるのが利点です。

そのうえで、日頃のご厚情への礼などの感謝を添えて前文を結び、主文へつなぎます。
ここまで整うと、本文の用件もぐっと伝わりやすくなります。
なお、前略で始める手紙は時候の挨拶と安否の挨拶を省く約束ですから、通常の前文の要素をそのまま入れないようにしましょう。
前文の型を知っておくと、略式にする場面との切り替えも迷いません。

時候の挨拶 月別の言葉一覧

前文は、頭語から始めて時候の挨拶で季節感を添え、相手の安否、自分方の近況と感謝へつなぐのが基本です。
書き出しの順番さえ押さえれば、形式ばった手紙でも堅くなりすぎず、相手に礼を尽くした自然な前文に整います。
前略で前文を省く場合は、そのぶん本文の入り方を簡潔にし、改まった相手には使いどころを見極めましょう。

春(1〜3月)と初夏(4〜6月)の時候の挨拶

1月から12月までの時候の挨拶は、まず漢語調を軸に押さえると整理しやすくなります。
1月なら厳寒の候・大寒の候・寒冷の候、6月なら入梅の候・梅雨の候・初夏の候、8月なら残暑の候・晩夏の候、11月なら晩秋の候・霜降の候のように、月ごとの代表語を手元に置いておくと迷いにくいでしょう。
漢語調は「〇〇の候」「〇〇のみぎり」と結び、改まった文面に向きます。

ただし、同じ月でも口語調にすれば、ぐっとやわらかく言い換えられます。
「寒さが厳しいころとなりました」「梅雨がうっとうしい折から」といった表現なら、相手との距離感に合わせやすく、季節の空気も伝わりやすいです。
漢語調と口語調を並べて考えると、文章の格式と親しみのどちらを優先するかを選べるようになります。
前文の第一段階として、頭語の次に置く言葉ですから、宛先との関係を意識して選びましょう。

盛夏〜秋(7〜9月)の時候の挨拶

時候の挨拶で見落としやすいのは、暦と体感がずれる場面です。
立秋は8月7日頃に訪れますが、そこを境に挨拶は「盛夏」から「残暑」へ切り替わるのが基本になります。
研修で受講者に当月のカレンダーを見せながら選んでもらうと、上旬と下旬で言葉を変えるだけで手紙の精度が上がると実感してもらえます。
実際、8月後半の手紙に盛夏の候と書いて相手に苦笑されたことがあり、暦の節目を意識する大切さを身をもって知りました。

この落とし穴を避けるには、月名だけで決めず、上旬・中旬・下旬まで見ることです。
たとえば7月なら梅雨明け前後、9月なら暑さの残り具合で表現が変わります。
相手の安否を尋ねる挨拶へ滑らかにつなぐには、実際の気候に寄り添った一言が効きますし、自分方の安否と日頃の感謝も季節感に合った温度で続けやすくなります。
書き出しの季節感を末文でも受けると、手紙全体のまとまりが生まれます。

晩秋〜冬(10〜12月)の時候の挨拶

10月から12月は、空気の冷たさが少しずつ増すので、言葉もそれに合わせて選ぶとよいです。
晩秋の候や霜降の候のような漢語調は、改まった相手に向きますし、口語調なら「朝夕の冷え込みが増してまいりました」「木々の色づきが深まるころとなりました」といった柔らかな表現が使えます。
結びの挨拶にも季節の言葉を入れると、書き出しと末文が呼応して、前文全体に一貫性が出ます。

前文は、相手方の安否を先に尋ね、その後に自分方の近況や感謝を述べる流れが自然です。
ここで前略を使うなら、頭語や時候の挨拶を省くぶん、本文へ入る理由がはっきりしている相手に限ると扱いやすくなります。
形式を守る場面では、頭語、時候の挨拶、安否、感謝の順をそのままなぞるだけで整います。
おすすめです。
慣れれば、手紙の入口で詰まることは少なくなるでしょう。

主文の書き方|起こし言葉から用件へ

手紙の主文は、前文から一段切り替えて用件に入ることで、読み手に「ここから本題だ」と伝わります。
起こし言葉を上手に使い、結論を先に置きながら、一通一件の原則で整理すると、文章の輪郭がくっきりします。
添削の現場でも、改行ひとつで挨拶と用件の混線がほどける手紙は少なくありません。

起こし言葉で本題に切り替える

前文を書き終えたら、行を改めて主文に入るのが基本です。
『さて』『ところで』『このたびは』のような起こし言葉は、前置きの空気をいったん区切り、ここから本題だと相手に知らせる合図になります。
なかでも改行してから入ると、見た目にも呼吸が整い、挨拶と用件が混ざって読みにくくなるのを防げます。
添削していると、前文と主文の間で改行せずに一続きに書いてしまい、どこから要件が始まるのか分かりにくい手紙に何度も出会いました。
たった一手間でも、読み手の負担はかなり変わります。

起こし言葉は、決まり文句を機械的に当てはめるものではありません。
『さっそくですが』『実は』『つきましては』のような表現も使えますが、前文の流れと用件の性質に合うかどうかが肝心です。
たとえば相手との関係が近いならやわらかく、依頼や案内のように用件を明確にしたい場面では、やや改まった語を選ぶと自然です。
言い回しを整える目的は飾ることではなく、読み手が無理なく本題へ入れるようにすることにあります。

用件は結論から簡潔に

主文では、何を伝えたいか、何を依頼したいかを先に書くのが読み手への配慮です。
依頼状で背景説明を長々と先に置くと、相手はどこが要件なのかをつかみにくくなります。
実際に、事情を丁寧に説明したつもりが、肝心の依頼が埋もれてしまった手紙を見たことがあります。
それ以来、「結論を先に、事情は後で」を徹底するようになりました。
先に核心を示しておけば、続く理由や補足もすっと入ってきます。

回りくどい前置きを重ねないことは、冷たさとは別です。
むしろ、相手の読む時間を節約し、確認すべき点を見落とさせないための気遣いになります。
用件が一文で言い切れるなら、まずそこを置き、そのあとで必要な事情だけを補えば十分です。
長い説明が必要な内容でも、最初の一文で要点を見せておけば、相手は安心して読み進められるでしょう。

一通一件を守ると読みやすい

一通の手紙には、用件を一件に絞るのが基本です。
複数の話題を詰め込むと焦点がぼやけ、読み手は何に返事をすればよいか迷います。
特に依頼、報告、お礼を同時に入れたくなる場面では、話をまとめたつもりでも、実際には受け手の理解が分散しやすいものです。
別件は改めて別の手紙にするか、どうしても同時に伝えるなら段落を明確に分けて、主題を取り違えないようにしましょう。

この整理術は、文章を短くするためではありません。
むしろ、相手が要点を取り違えないための設計です。
主文の入口をはっきりさせ、用件を一つに絞れば、読み手は「何を受け取ればよいか」をすぐにつかめます。
手紙は情報を並べる場ではなく、相手に確実に届く形へ整える場だと考えると、書き方の優先順位が見えてきます。
そうしてこそ、本文全体がすっきりと働くのです。

末文の書き方|結びの挨拶と結語

末文は、結びの挨拶と結語で整えます。
まず相手の健康や繁栄を祈り、あるいは今後の指導や厚誼を願う一文を置くと、手紙の余韻が自然に収まり、用件の硬さもやわらぎます。
そこに季節の気配を重ねると、前文とのつながりが生まれ、読み終えた印象がぐっと整うでしょう。

結びの挨拶のパターン

結びの挨拶は、単なる締め言葉ではありません。
相手への敬意を最後にもう一度示し、本文で伝えた用件をやわらかく受け止める役割があります。
相手の健康や繁栄を祈る型、今後の指導や厚誼を願う型が基本で、どちらを選ぶかは本文の内容に合わせると自然です。
たとえば依頼や相談の文面なら、今後のご指導ご鞭撻を願う形がなじみますし、近況報告や年始年末のあいさつでは、相手の安泰や発展を祈る締め方が落ち着きます。

季節の言葉を添えると、末文はさらにまとまりやすくなります。
寒い時期なら「寒さ厳しき折、ご自愛ください」といった体調への気づかいが生きますし、年末であれば「来る年のご多幸をお祈り申し上げます」と結べば、時節と用件がきれいに呼応します。
結びの一文は、内容を足すためではなく、相手への思いやりをにじませるために入れるものです。
ここを丁寧に置くと、全体がただの事務文書ではなく、礼を尽くした手紙になるのです。

結語は頭語とペアで選ぶ

結語は、前文で使った頭語と必ず対応させます。
拝啓で始めたなら敬具、謹啓で始めたなら謹白というように、外枠が対になって初めて体裁が整います。
ここが崩れると、本文がどれほど整っていても手紙全体がちぐはぐに見えてしまいます。
特に社外向けの文書では、内容以前に形式の不一致が目に留まりやすいため、頭語と結語の組み合わせは清書前に確認しておきたいところです。

現場でも、謹啓で書き出したのに末尾を敬具で結んだ文書を取引先に出しかけ、上司に指摘されて冷や汗をかいた、という話は珍しくありません。
あの経験以来、清書の段階で頭語と結語を見直す習慣がつきました。
組み合わせは暗記しておくだけでなく、文面を出す直前に見返すことが肝心です。
迷ったときは、次のセクションの組み合わせ表で照合しておくと安心です。

結語を置く位置と書き方

結語は本文の最後に、行を改めて下方へ寄せて書きます。
頭語が冒頭の行頭に置かれるのに対して、結語は末尾の行末側に回すことで、手紙の外枠が美しく閉じます。
ここを本文のすぐ下に詰めてしまう受講者は多いのですが、行を改めて少し下げるだけで、文面全体が急に手紙らしく見えるのです。
配置ひとつで印象が変わるため、私は指導のたびに繰り返し伝えています。

書き方そのものは難しくありません。
要は、本文を打ち切ったあとに改行し、結語を独立させて置くことです。
見た目の余白が生まれると、読み手はそこで自然に文の終わりを受け取れます。
末文は内容だけでなく、紙面上の収まりまで含めて完成します。
だからこそ、結びの挨拶で気持ちを整えたうえで、結語を所定の位置に置き、全体を静かに締めくくってください。

頭語と結語の正しい組み合わせ

頭語と結語は、対応を取り違えると文面全体の印象が崩れるため、最初に組み合わせで覚えるのが近道です。
一般的な手紙やビジネス文では拝啓と敬具が基本で、改まった礼状では謹啓と謹白、前文を省く略式なら前略と草々を選びます。
返信や追伸のように用途が限られる組み合わせ、そしてかしこのような女性専用の結語まで押さえておくと、相手と用件に応じて迷わず選べます。

拝啓・謹啓・前略の使い分け

拝啓は、もっとも広く使いやすい頭語です。
日常的な手紙はもちろん、社外への案内状や依頼文でも外しにくく、迷ったときの基準点になります。
研修ではまず対応表をカード化し、相手と用件を引いて正しいペアを選ぶ練習をしますが、表で覚えると本番で手が止まりにくくなるのです。
頭語と結語は単独ではなく、必ず一組で扱いましょう。

謹啓は、拝啓より一段あらたまった響きがあります。
改まった相手や目上への礼状では、謹啓と謹白を軸にし、結語は謹言や敬白でも対応できます。
フォーマル度で使い分けると考えると整理しやすく、相手に対する敬意の濃さを文面にそのまま映せます。
拝啓で十分な場面に謹啓を重ねる必要はありませんが、節度を求められる文面では選び方が印象を左右します。

前略は、時候の挨拶や安否の挨拶を省く略式の頭語です。
急ぎの連絡や簡潔な報告には向きますが、正式な依頼状や目上への手紙では、前文を省くこと自体がぶっきらぼうに受け取られやすいので注意が必要です。
目上の取引先に前略を使ってしまい、先輩から前文を省くのは失礼だと直された経験があります。
使ってよい場面の線引きを体で覚えておくことが、実務ではいちばん役立ちます。

結語との対応表

頭語と結語は、組み合わせが決まっているものとして覚えるのが確実です。
拝啓には敬具、謹啓には謹白が基本で、より改まった文面では謹言や敬白も選べます。
対応の軸を頭語・結語・使う場面・相手の4列で整理すると、見た瞬間に判断しやすくなります。

頭語結語使う場面相手
拝啓敬具一般的な手紙、ビジネス文広く使える
謹啓謹白改まった礼状、あらたまった通知目上、格式を重んじる相手
謹啓謹言改まった手紙目上、礼節を強めたい相手
謹啓敬白改まった手紙目上、文面を丁寧にしたい相手
前略草々時候・安否の挨拶を省く略式文親しい相手、急ぎの連絡

こうして表にすると、どの頭語を選べばどの結語に戻るのかが一目でわかります。
実際の研修でも、相手と用件を見て表から選ぶ練習を重ねると、覚えた知識がそのまま使える形になるのです。
対応表は暗記のためだけでなく、迷ったときの確認用としても役立ちます。

返信・略式・女性向けの特別な組み合わせ

返信には復啓と敬具を組み合わせます。
すでに出した手紙に追って出すときは再啓と敬具を使い、相手との文脈が続いていることを頭語で示します。
通常の往復と違い、前に交わした手紙が前提になるため、返信用の頭語は用件の連続性を保つ役割を持つのです。
形だけでなく、やり取りの流れまで含めて選ぶと自然になります。

かしこは女性だけが使える結語です。
目上にも使えますが、ビジネス文ではやや私的で柔らかい響きが残るため、使いどころは限られます。
礼儀として成立していても、職場文書では敬具や謹白のほうが無難でしょう。
結語は相手への締めくくり方そのものなので、文面の堅さと場面の相性を見て選んでみてください。

特別な組み合わせは数が多く見えても、役割で分けると整理できます。
返信なら復啓・再啓、略式なら前略・草々、女性向けならかしこ、と覚えると混乱しにくいでしょう。
頭語と結語は必ずペアで使う、ただこの原則だけは最後まで外さないようにしましょう。
これが守れていれば、手紙全体の品位は安定します。

後付けと書く前のマナー|署名・宛名・縦書き

後付けは、手紙の末文のあとに置く日付・署名・宛名のまとまりで、いつ・誰が・誰に宛てた文書かをはっきり示します。
改まった手紙では、ここが整っているだけで全体の印象が引き締まり、相手への敬意も伝わりやすくなります。
形式の差は小さく見えても、実際には読み手の受け取り方を左右する部分です。

後付け:日付・署名・宛名の位置

後付けは、本文を締めたあとに日付、署名、宛名の順で書くのが基本です。
必要に応じて宛名の左下に脇付を添えることもあり、これは「誰に向けた手紙か」をさらに明確にして、相手への配慮を示す役割を持ちます。
書き手側の情報だけで終わらせず、受け手をきちんと立てる構成にすることが、後付けのいちばんの意味だといえます。

現場では、宛名を署名と同じ大きさで置いてしまい、全体が平板に見える文書をよく見かけます。
添削では、宛名を行頭に揃え、一字下げて少し大きめに書くだけで、ぐっと整って見えると伝えることが多いです。
署名より宛名が目立つ配置にしておくと、相手を上に立てる関係が視覚的にも伝わります。
後付けは情報を埋める場所ではなく、敬意をかたちにする最後の仕上げです。

行頭・行末で守るべき名前のマナー

手紙では、自分の名前や「私」を行頭に置かない、相手の名前を行末に置かないという心得があります。
改行位置を少し調整するだけで避けられるため、内容そのものよりも先に、見た目の位置関係を整える意識が求められます。
相手の名を下に落とさず、書き手の名も冒頭に出しすぎない配置は、礼状や改まった案内状でとくに意識したいところです。

このマナーは、細かな体裁の話に見えて、実は相手との距離感を表す実践的なルールです。
自分を前に出しすぎないこと、相手を下げないこと、その両方を同時に満たすために、行の始まりと終わりを調整します。
形式を知っているだけでは十分ではなく、実際に書くときに段落の終わりまで見通して整えるのがおすすめです。

縦書き・横書き・便箋と忌み言葉の注意

書き始める前に、縦書きか横書きかを決めておくと失敗が減ります。
縦書きはフォーマルで、取引先や目上の相手、お礼状や謝罪文に向きます。
横書きは親しい相手に合わせやすく、少し軽やかな印象になるため、改まった礼状を横書きで出して「軽い印象になる」と指摘された経験は、用途と書式を合わせる重要さを強く教えてくれました。

また、弔事や慶事では忌み言葉を避け、句読点を控えめにする場面があります。
便箋の使い方でも、後付けだけを2枚目に残さないように気をつけたいところです。
本文、後付け、紙面全体の見え方まで含めて一枚の手紙として整えると、受け取った側の印象が安定します。
形式は堅苦しさではなく、相手に失礼なく届けるための設計だと捉えると、選び方がぶれにくくなります。

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高橋 誠一

大手商社での総合職15年を経てビジネスマナー研修講師に転身。名刺交換から国際儀礼まで、実践的なビジネスマナーを指導します。

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