手紙・挨拶文

手紙の季語の使い方|時候の挨拶と季節の言葉

更新: 高橋 誠一

季節の言葉は、俳句や和歌の季語を手紙用に転用して定着した時候の挨拶で、平安の公家社会にさかのぼる書状文化の中で育ってきました。
『季語』と『時候の挨拶』は似て見えても役割が少し異なり、ここを整理しておくと、手紙の冒頭で季節感をきちんと伝えやすくなります。
商社時代に海外取引先へ季節の挨拶状を送った際、作成から到着までに2週間かかって立秋を過ぎてしまった失敗があり、それ以来、書く日ではなく相手に届く日を基準に選ぶようになりました。
漢語調の「新春の候」と口語調の「梅のつぼみがほころぶころ」には使い分けがあり、二十四節気を物差しにすれば、相手や場面に合う言い回しを外しにくくなります。

季語とは何か:手紙の「季節の言葉」の正体

季語は、もともと俳句や和歌で季節を表すための言葉です。
そこから「初春」「残暑」「霜降」のような表現が手紙の定型句へ移り、いまでは時候の挨拶として定着しました。
つまり、俳句だけの専売特許ではなく、書状の書き出しを整えるための実用語として生きているのです。

季語と時候の挨拶はどう違うのか

季語と時候の挨拶は重なりますが、同じものではありません。
季語は季節感を担う素材であり、時候の挨拶はその素材を使って書き出す一文です。
研修で新入社員に教えると、ほぼ全員がこの二つを同じものだと受け取っていましたが、素材と文章の関係に切り分けて説明した途端、使い分けがすっと整理されます。

手紙は頭語・時候の挨拶・本文・結びの挨拶・結語・日付・差出人・宛名の8要素で成り立ち、季節の言葉はその2番目に置きます。
お礼状の添削で、本文の途中に季節の言葉を挟んでしまった例もありましたが、配置の順番を図解すると、どこに置くべきかが一目で伝わりました。
書き出しに置くからこそ、読み手は文の入口で季節と気づかいを受け取れるのです。

なぜ手紙に季節の言葉を入れるのか

季節の言葉を添える文化は、平安の公家社会の書状にさかのぼります。
現代に残っている理由は飾りではなく、相手の様子を気づかう前置きとして機能するからです。
まず季節を一つ置き、それから用件に入ることで、文字だけのやり取りでも対人の距離が少しやわらぎます。

たとえば「新春の候」「晩夏の候」のような漢語調は、格調を保ちたい文書に向きます。
対して「花の便りが聞かれるころとなりました」のような口語調は、親しい相手に自然です。
どちらを選ぶかは、相手との距離と手紙の目的で決めると迷いにくくなります。
書き出しと結びの調子をそろえると、全体が落ち着いて見えるでしょう。

公家社会から続く書状文化としての背景

「〇〇の候」の「候」は、時候の挨拶では「こう」と読みます。
武家言葉の「そうろう」とは別用法で、もともと「様子をうかがう」の意味を持つ語です。
だからこそ「新春の候」は、単に季節名を置いた表現ではなく、「新春の折、相手のご様子をうかがう挨拶」という働きを持っています。

季語選びの物差しになるのが二十四節気です。
1年を24に区切ったこの暦に沿えば、季語を外しにくくなりますし、さらに約5日ずつ72に細分した七十二候もあります。
中国由来の考え方ですが、江戸時代に渋川春海が日本の風土に合わせて「本朝七十二候」へ改訂しました。
日本の季語には旧暦由来の語が多く、新暦の実際の季節感と1か月前後ずれることがあるため、日付だけでなく相手に届く時期を意識して選ぶ姿勢が欠かせません。

時候の挨拶の型調子向く場面
漢語調格調高く儀礼的ビジネス文書、改まった手紙
口語調柔らかく親しみやすい私的な手紙、近しい相手

実務では、月だけで覚えるよりも二十四節気で押さえるほうが安全です。
1月の睦月なら「厳寒の候」「大寒の候」、2月の如月なら「向春の候」「梅花の候」、3月の弥生なら上旬〜中旬に「早春の候」「浅春の候」、中旬〜下旬に「春暖の候」「春分の候」「春陽の候」が使いやすい流れになります。
同じ月でも上旬・中旬・下旬で適語が変わるので、季節の言葉は固定句ではなく、時期に応じて選ぶ表現として捉えると実践しやすいでしょう。

漢語調と口語調:相手と場面での使い分け

漢語調と口語調は、どちらも手紙の時候表現ですが、相手との距離と手紙の目的で選び分けるとぶれません。
改まった相手には格調のある漢語調、親しい相手にはやわらかな口語調が自然で、書き出しと結びの調子までそろえると、読み手に落ち着いた印象を与えられます。
季節感そのものよりも、まず「誰に、何のために送るか」を先に考えることが要です。

漢語調「〇〇の候」の格調と使いどころ

漢語調は「新春の候」「晩夏の候」のように「〇〇の候」でまとめる表現で、短い語の中に儀礼性が凝縮されています。
平安の公家社会の書状にさかのぼる時候の挨拶の流れを受けつつ、現代では目上の相手、取引先、案内状、改まった通知文に向く書き方として定着しました。
武家言葉の「そうろう」とは別用法で、「候」は時候の挨拶では「こう」と読むため、読みの面でも混同しないことが大切です。
国際儀礼研修で、エグゼクティブ向けの案内にカジュアルな口語調を選んでしまい、場を軽く見られた経験がありましたが、あの違和感はまさに文体が場の格式とずれたことから生まれたものでした。

漢語調の良さは、相手に対して礼を尽くしていることがひと目で伝わる点にあります。
たとえば「新春の候」は新年の改まった空気を、「晩夏の候」は季節の移ろいとともに落ち着きを感じさせ、文頭だけで文章全体の格を整えます。
ビジネス文書では、本文が実務連絡でも、書き出しに漢語調を置くだけで全体の印象が引き締まるでしょう。
案内状や正式なお礼状で、まず外さない選択肢としておすすめです。

口語調「〜の季節となりました」の親しみ

口語調は「花の便りが聞かれるころとなりました」「梅のつぼみがほころぶころ」のように、情景をやわらかく描く言い回しです。
漢語調のような儀礼的な硬さはなく、読み手の生活感覚に近い温度で入っていけるのが魅力です。
親しい相手への手紙や、距離を縮めたい私的なやり取りでは、この親しみが文面の印象を支えます。
親しい取引先へのお礼状であえて口語調にしたところ、形式ばりすぎない余白が生まれ、会話のやり取りまで柔らかくなった経験もあります。

口語調が向くのは、内容を堅く見せることより、関係性をなめらかにしたい場面です。
季節の景色をさりげなく織り込むため、読み手は「自分宛てに丁寧に書いてくれた」と受け取りやすくなります。
私的な手紙や、長く付き合いのある相手への近況報告では、こうした温度のある書き出しが効いてきます。
形式を少し和らげたいときに選んでみてください。

ビジネスとプライベートで切り替える基準

切り替えの判断軸は、相手との距離と手紙の目的の2つです。
相手が目上の人、取引先、初めて文面を送る相手であれば、漢語調へ寄せると無難です。
逆に、やり取りが続いている相手や、気持ちを近く伝えたい場面では、口語調のほうが届きやすくなります。
フォーマル度が高いほど漢語調、関係が近いほど口語調へ寄せる、という早見で考えると迷いません。
時候の挨拶は手紙の8要素のうち2番目に置かれるので、最初の数行で文全体の距離感を決める役目も担っています。

なお、同じ手紙の中で漢語調と口語調を混ぜると、読み手は調子の揺れを先に感じます。
書き出しが格調高いのに結びが急にくだけると、文面の軸がぶれて見えるからです。
たとえば冒頭を「晩夏の候」としたなら、結びも落ち着いた調子でそろえるほうが自然でしょう。
反対に、口語調で親しみを出したなら、最後までその温度を保つのがおすすめです。
調子を統一するだけで、相手に与える印象はぐっと安定します。

「候」の意味と読み方:誤読しやすいポイント

名称 読み 基本の意味 誤読しやすい点 手紙での使い方
こう 様子をうかがう、変化のきざしをうかがう 「そうろう」と混同しやすい 「○○の候」として時候の挨拶に用いる
そうろう(候) そうろう 武家言葉の「〜でございます」に近い敬語表現 時候の挨拶の読みと別物である 現代の改まった手紙では通常使わない

「候」は時候の挨拶では「こう」と読みます。
武家言葉の「そうろう(候)」と同じ字を使うため混同されがちですが、現代の手紙で「○○の候」と書くときは「こう」が正しい読み方です。
読みを押さえるだけで、文面の印象はぐっと整います。

この字には「様子をうかがう」「変化のきざしをうかがう」という語義があり、天候・気候の「候」と通じています。
だから「○○の候」は、単なる飾り言葉ではなく、季節の移ろいを受け止めながら相手へ挨拶する表現なのです。
意味を知って使うと、言葉選びに迷いが減ります。

「こう」と「そうろう」の読み分け

新人が「候」を「そうろう」と読み上げて、研修の場が一瞬静まったことがあります。
字面だけを知っていても、手紙での実際の読み方まで周知されていないと、こうした行き違いは起きやすいものです。
時候の挨拶では「こう」と読むのが基本で、武家言葉の「そうろう(候)」とは用法が異なります。
見た目が同じでも、文脈が違えば読みも役割も変わるのだと押さえておきましょう。

この違いを理解するうえで役立つのが、文の中での働きを見ることです。
「そうろう」は古い敬語表現としての響きが強く、現代文では前面に出ません。
対して「こう」は「○○の候」という熟語の一部として、季節感を整えるために用いられます。
読み方を確認してから書く習慣をつけると、改まった文面でも安心して使えるようになります。

「〇〇の候」が表す意味

「候」の語義は、もともと「様子をうかがう」「変化のきざしをうかがう」という発想にあります。
そのため「〇〇の候」は、〇〇という季節の中で相手の近況や健やかさを気づかう挨拶として機能します。
天候・気候の「候」と同じ字が使われるのも、空模様や季節の移ろいを見つめる感覚とつながっているからです。
意味をたどると、ただの定型句ではなく、相手への配慮が込められた表現だとわかります。

たとえば「新緑の候」や「秋冷の候」は、季節の気配を言い当てながら、同時に相手の安否をたずねる書き出しになります。
ここを理解せずに写すと、言葉の選び方が表面的になりがちです。
意味の筋道が見えていれば、同じ「候」でもどの季節にどんな温度感が合うかを、自分で判断しやすくなります。

二重表現・季節重複の避け方

意味を知らずに使うと、盛夏なのに新春の候を書くような不自然さが生まれます。
これは単に季節語が合っていないだけでなく、読み手に「文面を確認していないのでは」と感じさせる原因にもなります。
研修や実務の現場でも、ベテランが季節の文言を取り違えた文書を見たことがありましたが、そこで効いてくるのは暗記ではなく、語義から見直す習慣です。
言葉の中身がわかれば、誤用はかなりの確率で自力で見抜けます。

改まった手紙では、二十四節気に沿った定番語を選ぶのが安全です。
立春、啓蟄、白露、冬至のような節目に合わせると、ふりがなや読み方を相手が迷う余地も減り、文面全体が落ち着きます。
迷ったときは、季節感が少しでもずれる表現を避け、意味が明快な語を選びましょう。
そうすると、形式だけでなく、相手への敬意も自然に伝わるでしょう。

二十四節気と季語:今の時期に合う言葉の見つけ方

二十四節気は、1年を24に区切って季節の移り変わりをとらえる暦で、立春・春分・立秋のような節目がはっきりしています。
季語を選ぶときも、この節目を物差しにすると「今はどの季語がふさわしいか」を迷わず判断しやすくなります。
実務でも、季語に迷う部下に二十四節気の一覧を渡しただけで、自分で選べるようになり、質問が目に見えて減りました。

二十四節気を季語選びの物差しにする

二十四節気は、季節感を感覚任せにせず、暦の上で整理できるところに強みがあります。
立春なら春の気配、立秋なら秋の入口というように、節目ごとの意味を先に押さえておくと、文章の中で使う季語の方向性がぶれません。
とくに手紙や挨拶文では、見た目の暑さ寒さだけで判断すると外しやすいので、暦を基準にする考え方が役立ちます。
部下に一覧を手渡して「この節気なら、この言葉が自然だ」と結びつけて教えたところ、季語の選択が格段に安定したのは印象的でした。

七十二候と本朝七十二候の成り立ち

二十四節気を約5日ずつ72に細分したものが七十二候で、季語の細かなニュアンスはこの七十二候に対応していることが多いです。
大きな季節の骨組みが二十四節気なら、七十二候はその中の肌触りまで見せる仕組みだと言えるでしょう。
たとえば同じ春でも、芽吹きなのか、花の盛りなのか、風の気配なのかで使う言葉は変わります。
だから暦と言葉は別々の知識ではなく、近いところでつながっているのです。

七十二候は中国由来ですが、江戸時代に渋川春海が日本の風土に合わせて「本朝七十二候」へ改訂しました。
この改訂が示しているのは、季語が抽象的な飾りではなく、日本の気候に根ざした実感と結びついているという事実です。
暦の言葉をそのまま覚えるより、土地の空気に合わせて読み替える姿勢が必要になります。
季語を使う側としても、文字面だけでなく、どの風土の感覚を背負っているかまで意識すると精度が上がります。

旧暦由来の季節感のずれに注意する

手紙の季語には旧暦由来の語が多く、新暦の実際の季節感と1か月前後ずれることがあります。
このずれを知らないままだと、体感の暑さ寒さだけで言葉を選んでしまい、季節の呼び方が少しずれる場面が出てきます。
たとえば立秋は8月上旬にあたり、暑さが残っていても、そこからは暑中見舞いではなく残暑見舞いへ切り替えるのが自然です。
暦を知っていれば、その切り替えが形式ではなく理屈として腑に落ちます。

この感覚は、現場で繰り返し教えると定着しやすいです。
立秋を境に書式を変える理由を、気温ではなく暦の区切りで伝えたところ、相手は「暑いかどうか」ではなく「今はどの節気か」で考えるようになりました。
おすすめなのは、季語を単語として暗記するより、二十四節気と七十二候を並べて見ながら練習することです。
そうすると、暑中見舞い、残暑見舞い、時候の挨拶の使い分けが自然に身につきます。

1月〜12月の代表的な季語と例文

1月から12月までの挨拶文では、月に合った漢語調の季語を押さえつつ、相手との距離感に合わせて口語調も使い分けると、手紙全体がぐっと自然になります。
特に同じ月でも上旬・中旬・下旬でふさわしい表現が変わるため、投函時期まで意識して選ぶことが大切です。
月別早見表を手元に置いておくと、迷いが減り、書き出しを整える作業も速くなります。

春(1〜3月)の季語と書き出し

1月の睦月は、年明けの改まった空気が残る時期なので、「厳寒の候」「大寒の候」「寒冷の候」のような締まった漢語調がよく似合います。
口語調では「松の内のにぎわいも過ぎ」と始めると、年始の余韻と寒さがほどよく伝わります。
2月の如月は、「向春の候」「梅花の候」が使いやすく、口語調なら「梅のつぼみがほころぶころ」と添えると、寒さの中にも春の気配が立ち上がります。
3月の弥生は使い分けが特に細かく、上旬〜中旬は「早春の候」「浅春の候」、中旬〜下旬は「春暖の候」「春分の候」「春陽の候」が目安です。
実務では、この月別早見表を手元に置くようになってから、季語選びの時間が目に見えて短くなりました。

3月は、見た目の季節感だけで選ぶとずれやすい月です。
実際、3月上旬に「春暖の候」を使って早すぎると指摘されたことがあり、それ以来、上旬・中旬・下旬を意識するようになりました。
同じ3月でも、上旬はまだ冷えが残り、中旬を過ぎると日差しがやわらぎ、下旬には春本番に近づきます。
だからこそ、投函日ではなく「相手に届くころ」を基準に考えるのが要点です。
漢語調を選ぶなら硬さが出ますし、口語調を添えれば親しみも出せます。
どちらを使う場合でも、時期に合っているかを確かめて書くと安心です。

夏・秋(4〜9月)の季語と書き出し

4月から9月は、季節の進み方が比較的わかりやすい一方で、暦の切り替わりを外すと違和感が出やすい時期です。
春の余韻が残る4月は軽やかな語が似合い、初夏から盛夏にかけては暑さを伝える語へ移ります。
7月までは暑中見舞いの感覚で書き、立秋のある8月上旬を境に残暑見舞いへ切り替えるのが基本です。
ここでは「暦に合わせる」という考え方が最も役立ちます。
気温だけで判断せず、節気の流れを軸にすると、挨拶の印象が整います。

月ごとの具体語は、本文で補うと覚えやすくなります。
たとえば、4月は春らしいやわらかさ、5月は新緑の勢い、6月は梅雨の湿り気、7月は盛夏の明るさ、8月は残暑への移行、9月は秋の気配というように、空気の変化を一語に落とし込むと自然です。
漢語調は改まった文面に向き、口語調は近しい相手への便りに向きます。
迷ったときは、受け取る人がその日の空気を思い浮かべやすいかどうかを基準にするとよいでしょう。

冬(10〜12月)の季語と書き出し

10月から12月は、秋の名残から年末へ向かう流れがはっきりしており、季語も次第に落ち着いた調子になります。
10月は秋の深まりを示す語、11月は冷気を帯びた語、12月は年の瀬らしい締まりのある語が中心です。
年末・年始の改まった挨拶状では、特に漢語調が好まれます。
文面全体に格が出て、相手に対する敬意も伝わりやすいからです。
口語調を使うなら、堅さを少し和らげる方向で添えるとまとまりやすくなります。

冬の文章で意識したいのは、形式を整えることよりも、相手に届くころの空気を外さないことです。
12月の忙しさの中で書く場合でも、年始に読む前提で少し先の季節感を選ぶと、手紙らしい余裕が生まれます。
季語は飾りではなく、受け取る人の目の前に時期を立ち上げるための手がかりです。
おすすめなのは、月ごとの代表語をまず一つ覚え、そこから漢語調と口語調を切り替えてみてください。
書き分けの感覚がつかめると、季節の挨拶はずっと組み立てやすくなります。

季節ずれを防ぐ:作成日ではなく届く日を基準に

季語は、書いた日ではなく相手の手元に届く日で選ぶのが基本です。
作成から到着まで数日空く挨拶状や印刷物では、送った側の感覚よりも先に季節が進みます。
立秋を過ぎてから届いた挨拶状に夏の季語が残っていると、内容が丁寧でもどこかちぐはぐに映るものです。

「届く日」を起点に逆算する

季節ずれを防ぐには、作成日を起点にせず、相手が読む日から逆算して文面を整えるのが実務的です。
特に遠方発送や印刷物のように日数がかかる場面では、執筆時点ではまだ季節が合っていても、到着時には外れてしまうことがあります。
到着日を先に置くと、冒頭のあいさつから季語、結びまでの流れがぶれにくくなります。

実際、立秋を過ぎてから届いた挨拶状に夏の季語が使われていて、強い違和感を覚えたことがあります。
それ以来、文章を書くときは「いつ完成するか」より「いつ届くか」を先に確認するようになりました。
季語は装飾ではなく、相手と同じ季節感を共有するための合図ですから、そこがずれると全体の印象までゆるみます。

遠方・寒暖差のある相手への配慮

送り先の地域に雪が残っているような時期は、書き手の所在地だけで季語を決めるのは危険です。
北海道と九州では同じ日でも気候が違い、同じ「春」「初夏」という感覚がそのまま通じるとは限りません。
遠方の取引先へ送る際に相手の地域の気候を調べてから季語を選ぶようにしたところ、文面が自然だと受け取られ、やり取りの入り口で好印象につながりました。

こうした配慮は、単に季節感を合わせる作業ではありません。
相手の土地の空気まで想像していると伝わるからこそ、文面に温度が出ます。
寒暖差がある地域に向けた手紙では、華やかな表現よりも、その土地で無理なく受け取れる言葉を選ぶほうが、はるかにスマートです。

迷ったら二十四節気に寄せる

季語選びに迷ったら、凝った語を狙うより二十四節気に沿った定番語へ寄せるのが安全です。
難しい季語ほど季節感の差が目立ちやすく、外したときの印象も強く残ります。
定番語は可もなく不可もなく見えますが、実は相手に違和感を与えにくい、最も実用的な選択肢です。

季語を間違えると、内容以前にビジネスマナーが身についていないと受け取られるおそれがあります。
形式の乱れが、そのまま相手の評価に結びつくからです。
攻めるより外さないことを優先し、迷った場面では無理に凝らず、季節の節目を踏まえた言葉へ戻してみてください。
そうした選び方が、もっとも安定した印象を生みます。

頭語・結語との組み合わせと配置のルール

頭語と結語は必ず組み合わせて使い、拝啓には敬具、前略には草々というように対応をそろえるのが基本です。
時候の挨拶は、その頭語の直後に置いて文面の流れを整えます。
順序が崩れると、形式だけでなく相手に向けた配慮まで曖昧に見えてしまうため、まずは配置を体で覚えておくと安心です。

拝啓・敬具と時候の挨拶の並び

拝啓・敬具のような組み合わせは、単なる決まり文句ではなく、文面全体の骨組みです。
頭語で書き出したら、続けて時候の挨拶を添え、そのあとに用件へ入る流れを守ると、手紙は落ち着いた印象になります。
研修で前略と時候の挨拶を併用した手紙を見たことがありますが、あのとき感じたのは、言葉そのものより「頭語選びの基本」が抜けると全体の整い方が崩れるということでした。
だからこそ、セット運用として教える必要があるのです。

頭語と結語をそろえる意識があると、時候の挨拶の位置も自然に定まります。
拝啓のあとに季節感のある一文を置けば、相手は「きちんとした手紙だ」と受け取りやすくなり、内容に入る前の呼吸も整います。
形式に見えて、実際には読み手の受け止めやすさを支える役割を持っているわけです。
季語は飾りではなく、本文へ入る橋渡しとして働く、と考えると理解しやすいでしょう。

前略・草々を使うときの注意

前略は、文字どおり前文を略すための頭語です。
したがって、時候の挨拶を丁寧に書くつもりなら、前略を選ぶのは筋が通りません。
急ぎの用件で前文を省きたいなら、季節のあいさつまで省いてしまうほうが整合します。
前略なのに「初夏の候」などを添えると、相手には「略すのか、略さないのか」が伝わりにくくなるからです。

草々も同じく、簡略な文面を受け止める結びです。
ですから、前略・草々は一続きで覚え、そこに長い前置きを足さないことが肝心になります。
実務では、短い案内や急ぎの連絡ほど、文面全体を縮める判断が求められます。
研修でこの組み合わせを繰り返し確認するのは、例外を覚えさせるためではありません。
むしろ、略すならどこまで略すかをそろえるためです。
形式を足し算で考えず、引き算の整え方として身につけてみてください。

メール・一筆箋での省略可否

メールでは、頭語・結語を使わず「お世話になっております」などの定型句で始めるのが標準です。
そのため、時候の挨拶は必須ではありません。
むしろ長く書きすぎると、要件に入るまでが重くなります。
ビジネスメールに長い時候の挨拶を入れて冗長になった例を見てからは、媒体ごとに分量を変えるよう指導するようになりました。
画面で読む文面は、紙の手紙よりも先に用件へ進んだほうが伝わりやすいからです。

一筆箋のように紙面が限られる場合は、季節感を一語にとどめるなど、さらに短くして差し支えありません。
メールでは省略し、一筆箋では短く添える。
この切り替えができると、相手と場面に合わせた文面になります。
形式に縛られすぎるより、伝えるべき内容が最短で届くことを優先したほうが実用的です。
頭語・結語の型を知ったうえで、媒体に応じて軽くする。
そこまでできると、手紙もメールもぐっと扱いやすくなります。

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高橋 誠一

大手商社での総合職15年を経てビジネスマナー研修講師に転身。名刺交換から国際儀礼まで、実践的なビジネスマナーを指導します。

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